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2013年09月24日

今宵もあのバーで 「カリスマの男」9


うっ・・・ここは、どこだ?

小五郎は、駅前にある公園のベンチで寝ていた。
昨夜は、バーでアブサンを立て続けに四杯飲んだが、その後の記憶がまったく思い出せなかった。

体を起こすと、早足で駅の構内に入っていくサラリーマンの姿が遠くに見えた。
公園のモニュメントの時計は、7時15分を差している。

小五郎はゆっくりと起き上がると、妙な感覚に気が付いた。
70度の酒をあれだけ飲んだのに、酔いがまったく残っていない。
いや。それだけではない。
“何か”がいつもと違うのだ。


かすかに揺れる樹木の葉。葉の間から洩れてくる朝陽の光。
餌を探し回る鳩たち。キンモクセイの香り。公園の石畳を踏んでいる感覚。

すべてが恐ろしいほどリアルだった。
とにかく臨場感が半端ないのである。
いままで生きていた世界が、まるで薄っぺらい紙芝居のように感じた。

おそるおそる公園を歩いてみた。
ベンチの前の噴水をぐるりと一周したところで、小五郎は愕然として立ち止まった。
自分が動いているのではなく、世界が自分の中で動いていたのである。
目線を下に向けると、自分の体は、世界の一部になっていた。

それは、まるで“顔出しパネル”から顔を出しているような感覚だった。
記念撮影用に観光地などに置いてある、あれである。
パネルの穴から“小五郎の意識”が世界を眺めていた。
自分は、まったく動いていない。
動いているのは、世界の方だったのである。


か、顔がない!!
“誰か”の叫び声がした。

首から上が消えている。
あのアブサンという酒のせいなのだろうか・・・

その誰かは、この摩訶不思議な状況をあれこれと考えだした。
意識は、話を静かに聞き、彼が連れてきた不安と恐れを感じていた。

話が終わると、世界は静寂と平安に包まれた。
考える誰かがいない時、世界は誰のものでもなかった。

そんなことを何度か繰り返しているうちに、考える誰かはあることに気づいた。

もしかして、俺は“思考”なのか?
俺が考えている時だけ、俺は存在しているような気がするが・・・
考える誰かは、益々混乱した。

なんてこった。
これがアロハ男が言った「存在していない」ということなのか。
うん?じゃあこの体を動かしているのは、いったい誰なんだ?

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posted by 安達正純 at 16:11 | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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