「生きるのは辛いものじゃ。人は誰もが苦しみや悲しみを背負って生きておる。その姿がそのまま仏さんなんじゃ。今のおまえさんなら、誰もが安心して打ち明けることができるはずじゃ」
「はい」
「わしらも朝早くからここに集まって反省しとったんじゃ」
「反省・・・何をですか?」
「村のために尽力を惜しまなかった四代目が突然亡くなって、村民は、心の支えを失ってしもうた。ここも廃寺になってしまうのじゃないか、それを考えるとわしは夜も眠れんほど心配じゃった。
だがおまえさんは五代目として、東京からこんな山奥の村に来てくれた。誰もが飛び上がるほど喜んだが、四代目への恩返しは、おまえさんを一日でも早く一人前の僧侶にすることだ、とみんなで相談して決めたのじゃ。だから歓迎会もせず、あれこれ厳しく叱ってしまった。
おまえさんを鬱にしてしまったのは、わしら檀家衆の責任じゃ。どうかここにいるみんなを許してもらいたい」
吉井のじいさん、そしてその他の檀家も揃って、頭を下げた。
「・・・」
みんなの本心を聞き、大粒の涙がとどめもなく流れた。
「ありがとうございます。一から出直します。みなさん。これからも長生きして、新米住職を叱り飛ばしてください」
「みんなが長生きしたら、寺が儲からんじゃろうに」
がはっはっはは!!
本堂に大勢の笑い声が鳴り響いた。
その夜、小五郎は久しぶりに深い眠りについた。
スマートフォンのアラームがなったのは、朝の四時だった。
前の晩、母に作らせたおにぎりを二つ食べた小五郎は、本堂の玄関や庭を丹念に掃除した。
掃除を済ませ本堂で線香を上げると、寺の門扉を開いた。
正面に見える山から朝陽が半分顔を出していた。
薄い雲がオレンジ色に染まり、十数羽の鳥たちがV字になって飛んでいる。
視界を遮るものは何もない。
都会では観ることのない大自然のパノラマは、小五郎を無心にさせてくれた。
・・・ ・・・
朝陽に向かって合掌し、ゆっくりと深呼吸した。
背筋をピンと伸ばすと、誰もいない門前で一礼し、腹の底から大きな声を出した。
「安楽寺、只今開店いたしました!私は、この寺の五代目住職、佐藤小五郎です。本日も一日、どうぞよろしくお願いいたします!」
にやあ〜
猫の鳴き声がどこかで聞こえたような気がした。
カリスマの男 終
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