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2013年10月15日

今宵もあのバーで 「カリスマの男」最終回


「生きるのは辛いものじゃ。人は誰もが苦しみや悲しみを背負って生きておる。その姿がそのまま仏さんなんじゃ。今のおまえさんなら、誰もが安心して打ち明けることができるはずじゃ」

「はい」

「わしらも朝早くからここに集まって反省しとったんじゃ」

「反省・・・何をですか?」

「村のために尽力を惜しまなかった四代目が突然亡くなって、村民は、心の支えを失ってしもうた。ここも廃寺になってしまうのじゃないか、それを考えるとわしは夜も眠れんほど心配じゃった。

だがおまえさんは五代目として、東京からこんな山奥の村に来てくれた。誰もが飛び上がるほど喜んだが、四代目への恩返しは、おまえさんを一日でも早く一人前の僧侶にすることだ、とみんなで相談して決めたのじゃ。だから歓迎会もせず、あれこれ厳しく叱ってしまった。

おまえさんを鬱にしてしまったのは、わしら檀家衆の責任じゃ。どうかここにいるみんなを許してもらいたい」

吉井のじいさん、そしてその他の檀家も揃って、頭を下げた。

「・・・」

みんなの本心を聞き、大粒の涙がとどめもなく流れた。

「ありがとうございます。一から出直します。みなさん。これからも長生きして、新米住職を叱り飛ばしてください」

「みんなが長生きしたら、寺が儲からんじゃろうに」

がはっはっはは!!
本堂に大勢の笑い声が鳴り響いた。



その夜、小五郎は久しぶりに深い眠りについた。

スマートフォンのアラームがなったのは、朝の四時だった。
前の晩、母に作らせたおにぎりを二つ食べた小五郎は、本堂の玄関や庭を丹念に掃除した。
掃除を済ませ本堂で線香を上げると、寺の門扉を開いた。

正面に見える山から朝陽が半分顔を出していた。
薄い雲がオレンジ色に染まり、十数羽の鳥たちがV字になって飛んでいる。
視界を遮るものは何もない。
都会では観ることのない大自然のパノラマは、小五郎を無心にさせてくれた。

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・・・ ・・・

朝陽に向かって合掌し、ゆっくりと深呼吸した。
背筋をピンと伸ばすと、誰もいない門前で一礼し、腹の底から大きな声を出した。


「安楽寺、只今開店いたしました!私は、この寺の五代目住職、佐藤小五郎です。本日も一日、どうぞよろしくお願いいたします!」


にやあ〜
猫の鳴き声がどこかで聞こえたような気がした。


カリスマの男 終

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2013年10月08日

今宵もあのバーで 「カリスマの男」11


小五郎の心は、一点の曇りなく澄み切っていた。
晴れ上がった空に、どこからともなく雲が流れてくるように、言葉が浮かんできた。
その言葉は、思考の検閲を受けず、そのまま口から出ていった。


“カリスマ営業マン”として東京で働いていたこと
父史郎の死を未だに受け入れられないこと
慣れない仕事でストレスが蓄積し、鬱になったこと
妻が子どもを連れて、実家に帰ってしまったこと
自分は“仏の道”を教えるような人格ではないこと
近い将来、廃寺の手続きをしようと考えていること

時より法衣の袖で目頭を押さえながら話す小五郎の姿を、檀家たちは静かに見守っていた。

「以上です。ご静聴ありがとうございました」

檀家たちは、小五郎に向かって、合掌した。


「いや素晴らしい説法じゃった。ありがとう」
吉井のじいさんが深々と頭を下げた。

「いいえ。これは説法ではありません。
これまで隠してきたことをお話して、みなさまにご判断いただきたいと思っただけです」

「判断ならもうついておる。おまえさんの中に仏さんを見たんじゃよ。だからみんな合掌したんじゃ」

「・・・仏様ですか」

「おまえさんは、ずっと自分の力で、この寺をなんとかしようとしてきたはずじゃ。しかし、今のおまえさんは一切の自力を捨て、仏さんにすべてを委ねておるじゃないか」

「はい。自分でも不思議なのですが、立派な人間になろうとするエゴが消えてしまいました。未熟ですが、どうしようもない自分のまま生きていくしかありません。そう思ったら、みなさんに包み隠さずお話したくなりました」

「あるがままに生きる。これぞ仏道なのじゃ。それでいいんじゃよ」

「えっ、このままでいいんですか?修行し、悟りを開いて、仏様になるのだと思ってましたが」

「そうではない。瓦をどれだけ磨いても、鏡にはならぬものじゃ。瓦を否定し、鏡になろうとする心、それが邪魔なんじゃよ。修行とは、その分別心を落とすことにある。おまえさんに何があったのか知らぬが、その邪魔ものが見事に脱落しておる」

「何者かになる必要はなかった?」

「そういうことじゃ。
このままでは駄目だ。何とかしなければならぬ。
その分別心が、そもそも“迷い”の原因じゃ。
そして、その迷いが“悟り”という幻想を創ったというわけじゃな」

「悟りは、幻想なのですか?」

「悟りというものを欲しがっているようでは、まだ迷いの中にいるということじゃ。
そこの池に、蓮の花が見事に咲いておるじゃろ。
仏さんは、水面の綺麗な花か?それとも泥の中の根っこか?」

「どちらもです」

「その通りじゃ。分別心が落ちれば、花も根もなく、あるがままの姿が見えるものじゃ」

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2013年10月01日

今宵もあのバーで 「カリスマの男」10


さっきからずっと俺を眺めているおまえだよ。
おまえさんは、いったい何者なんだ?

“考える誰か”が消えると、深遠なる静寂がそこにあった。
視覚、聴覚、触覚、嗅覚・・・
あらゆる感覚が、誰のものでもなく、打ち返す波のように、やってきては去っていった。

そこには、中心がなく、時間も、変化もなかった。
はじまりもなければ、終わりもない。
どんな言葉も当てはまらない圧倒的にリアルな世界だけが実在していた。
さらに厳密に表現するなら、「世界」さえも無い。
なぜなら、世界を認識する者がどこにもいなかったからである。

こ、これは・・・
やってきた思考が流れ星のように、一瞬で消えていった。
その時、考える誰かは、すべてを悟った。

がっはっはっは!!
なるほどそういうことか!
考える誰かの笑い声が静寂を突き破った。

俺は、“無”という舞台で「佐藤小五郎」を演じる役者というわけか。
そして、本当の俺は・・・
そうかそうだったのか・・・
考える誰かは、泣いていた。

ありがとう・・・ありがとう
そうつぶやくと、考える誰かは、静寂に溶けていった。

しばらくベンチの前で止まっていた世界は、ゆっくりと駅の方角へ動き出した。
電車が最寄りの駅に着く頃には、世界が自分の中で動いているという感覚が薄まりはじめ、山道を歩いているうちに、完全に元の世界に戻った。

小さな峠を越えると、寺の門が見えてきた。
早足で門をくぐると、本堂の前に、大勢の人影があった。
【本日閉店】の張り紙の前に、檀家たちが円座になって座り込んでいたのである。

小五郎の姿を見つけた檀家たちは、小五郎を囲むように集まってきた。

「このアホたれが!」
いつも小五郎に説教をしていた吉井のじいさんが怒鳴った。
その目は充血し、うっすらと涙が浮かんでいた。

小五郎は何も言わず、四方の檀家に深々と頭を下げた。
そして張り紙をはがし、檀家たちを本堂に向かい入れた。

法衣に着替えた小五郎は、正座をし、頭を畳に付けた。
ゆっくりと体を起こすと、再び一礼し、口を開いた。

「ご心配をお掛けしまして申し訳ありませんでした。誠に勝手ながら、本日は説法ではなく、私個人の話をさせていただきます」

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